2015/08/01

8/1/2015ワークショップ「宇宙機の熱設計と先進軽量構造物」を開催

坂本啓です。

本ORIGAMI Projectは、「宇宙展開構造物の研究開発拠点形成」を目指すものです。

そのために、超小型衛星OrigamiSat-1を開発するだけではなく、広く外に開かれ、さまざまな分野の専門家・若手研究者が共に活動をしていけるコミュニティを育成する活動を行っていっています。

その一環として今回、日本機械学会 宇宙工学部門 先進軽量構造システム(ALSS: Advanced Lightweight Structure System)研究会(主査:坂本啓、幹事:南部陽介)と共同で、宇宙構造物をめぐるワークショップを主催しました。今回のワークショップの目的は、将来の宇宙機設計のために、宇宙機の熱系の研究者と構造系の研究者が、近い将来の研究開発イメージを共有すること、としました。単なる講演会ではなく、午後には全参加者がグループに分かれてディスカッションを行いました。さまざまな方々のご協力により、(以下に報告します通り)ワークショップはたいへんに盛り上がりました! 本当にありがとうございます。

2015年8月1日(土)、午前10時に開始。会場は「東京工業大学 石川台5号館 デザイン工房」です。(本デザイン工房は、東工大SIPプロジェクトおよび東工大EDGEプロジェクト(CBEC)などの実践場として整備されているもので、今回のように異分野協業のワークショップを開催する場所として最適です。)

講演者・参加者あわせて総勢、20名を超える研究者・学生が集いました。
午前中~昼過ぎまで、以下の5名の宇宙工学の専門家が講演を行いました。

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1. 東京工業大学 機械宇宙システム専攻 坂本啓 准教授(ORIGAMI Project代表、ALSS主査)

  • 今日のワークショップの狙いについて
  • 昨今の先進軽量構造物の研究紹介…IKAROS、OrigamiSat-1、ASTRO-G、形状可変副鏡など
  • 熱系と構造系の連成問題の代表例として、「みどり」「みどり2」の不具合事例を紹介

2. 名古屋大学 航空宇宙工学専攻 長野方星 准教授

  • 宇宙機の熱設計の基礎の解説(熱光学特性、接触熱抵抗、真実接触面積、サーマルフィラー、サーマルルーバ、フィルムヒーター、ヒートパイプ、流体ループ、熱解析手法、検証試験法…)
  • ヒータ電力が大きくなってきた場合の対処法: 輻射制御、高熱伝導材、ヒートスイッチ、ループヒートパイプ、自励振動ヒートパイプ、相変化材…
  • 熱物性計測の最先端
  • 「展開ラジエータ開発」⇒午後のディスカッションのテーマとしてご提示いただいた。

3. JAXA宇宙科学研究所 太刀川 純孝 主任研究員

  • 次世代の熱制御材料: Smart Radiation Device、MEMS radiator、COSF (controlled optical surface film)、ポリイミドフォームを使用した多層断熱システム…
  • 材料の熱光学特性の劣化試験: 構造系と試験を共通化できないか?
  • 日本熱物性学会 研究分科会「先進材料の熱物性と宇宙システムデザイン」へのお誘い
  • 午後のディスカッションテーマとして「熱制御材料利用と劣化試験」を設定。

4. JAXA研究開発部門 第二研究ユニット 篠崎慶亮 主任研究員

  • Astro-H、SPICA、ATHENAなどの Cryogenic mission の紹介
  • 50mKの実現: Sun Shield (JWST)、V-groove(JPLが考案、Plank 2009など)、トラス分離機構、熱光学特性の計測
  • 午後のディスカッションテーマとして「極低温衛星」を設定。

5. JAXA宇宙科学研究所 齋藤 宏文 教授,株式会社テクノソルバ 代表取締役社長 中村和行様

  • 100kg級衛星でのSARレーダーの実現を目指している
  • その際のアンテナパネルの設計、熱歪評価の実際について情報共有
  • 豊富な経験に基づく重要な示唆をいただいた:「直観的理解と説明が重要」「展開状態の熱変形予測は困難」…

午前だけで十分盛りだくさんでしたが、会場でお弁当を食べた後、午後は3グループに分かれてディスカッションしました。ディスカッションでは以下のアウトプットを求めました:

  • 結局,何が問題なのか,問題定義:  「やるべきこと」「自分たちがやりたいこと」
  • 解決策の提示とその実現のための課題を明確化
  • 5年後,10年後,20年後の研究開発イメージ

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3つのグループとは、長野先生からご提示いただいた「展開ラジエータ開発」・太刀川様からご提示いただいた「熱制御材料利用と劣化試験」・篠崎様からご提示いただいた「極低温衛星」の3つです!

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どのチームもなんだかとても楽しそうに語り合っていました!

16:30より、各グループにディスカッションの結果を発表していただきました。短時間の議論にも関わらず、それなりにまとまったアウトプットを発表されるところは、さすがプロの研究者集団おそるべし…といったところです。各チームのアウトプットを、坂本が独断と偏見でまとめたメモは以下の通り。

  • 「展開ラジエータ」グループ
    • 問題は「サイズ・重量の制約が強い中で大電力ミッションを成立させるための選択肢を増やすこと」
    • 解決策とそれぞれの課題:
      • フレキシブルSAP…簡易に展開できる機構は?
      • 可変ラジエータ…簡易に収納・展開できる機構は? 膜展開型フィルムラジエータ? モータを使わずいかにパッシブで実現するか?
    • 大型では当たり前の技術であっても、どう小型化するかを、実践的に開発していく
  • 「熱制御材料利用と劣化試験」グループ
    • 問題は、「熱系と構造系のこれまで以上のコラボレーション」
    • 解決策と課題:
      • 熱光学特性(α、ε)と、線膨張係数を、お互いに試験するときに計測する⇒いますぐ実施できる!
    • 展望:
      • 5年後: ポリイミドフォームの活用、α/εを変化させる技術
      • 20年後: α、ε、線膨張係数の経年劣化がうまくキャンセルし合って見かけ上劣化しない材料を開発
      • もっと先: MLIを不要化
  • 「極低温衛星」グループ
    • 問題は、「極低温衛星の実現法の選択肢を多様化」
    • 解決策と課題:
      • 冷却(V-Groove、Cooler)
      • 断熱(3重管、分離機構)
      • 物性計測
    • 展望(以下、それぞれの項目に担当者を決定!):
      • V-Groove: 設計論提案、しわの寄らない膜、効果的な展開形状
      • Cooler: 新たなアクチュエータ提案
      • 断熱: 外乱の切り離し
      • 物性: 材料データ取る

最後には、そのまま会場で懇親会。次回は、制御系の人たちを招聘したら?などのアイデアも飛び出し、今後ともコミュニティを広げていく活動が継続できそうです。

本当にお疲れさまでした!

坂本啓